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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)2327号 判決

原告

福本和美

被告

幸寺力

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一一〇六万九六二二円及びこれに対する昭和五九年一〇月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告は、昭和五九年一〇月二七日午後一一時四五分ころ、普通乗用自動車(大阪五六も二二〇六号、以下「被告車」という。)を運転して大阪府守口市大久保町四丁目二四一番地付近の東西に走る道路(以下「東西道路」という。)を西から東に向かつて直進中、右道路と交差して南北に走る道路(以下「南北道路」という。)を南から北へ向かつて進行してきた原告運転の原動機付自転車(寝屋川市め八四六号、以下「原告車」という。)に被告車を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  原告の受傷、治療及び後遺障害

原告は、本件事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、意識障害、頭部挫傷、右動脈神経麻痺、右片麻痺、右上眼瞼運動障害、瞳孔不同、視野異常調節衰弱等の傷害を受け、そのため、昭和五九年一〇月二七日から昭和六〇年二月二八日までの一二五日間吉川病院に入院し、同年三月一日から同年六月六日まで(実通院日数二八日)同病院に、同年五月八日から同年同月二七日まで(実通院日数二日)関西医科大学附属香里病院に通院して治療を受けた。しかし、原告の右傷害は完治せず、昭和六〇年六月六日、記憶障害、物の誤認、計算能力低下、易疲労感、感情の不安定、頭重感、ふらつき等の精神神経症状及び右上眼瞼下方視時運動制限をきたし、就労可能な職種が相当程度に制約される後遺障害を残存させたままその症状が固定するに至つた。原告の右後遺障害は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表後遺障害等級表(以下「等級表」という。)第九級一〇号(「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」)に該当する。

3  責任

被告は、被告車を所有し、本件事故当時これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 治療費 金五六一万六四七六円

原告は、本件事故による前記傷害の治療費として金五六一万六四七六円を支出した。

(二) 入院雑費 金八万〇五六〇円

原告は、前記入院期間中、金八万〇五六〇円の入院雑費を要した。

(三) 付添看護費 金一五七万〇六六〇円

原告は、前記入院期間中、付添看護を必要とし、付添看護を受けてその費用として金一五七万〇六六〇円を支出した。

(四) 休業損害 金一四二万一四〇二円

原告は、昭和二八年一一月一三日生まれの本件事故当時三〇歳の健康な主婦であつたところ、本件事故により本件事故の日である昭和五九年一〇月二七日から前記症状固定日の昭和六〇年六月六日までの二二三日の間、全く家事労働に従事することができなかつた。右の間の原告の家事労働能力は、統計上の女子労働者(三〇歳)の平均賃金年額二三二万六八〇〇円を基準として算定すべきであり、原告が右の間家事労働に従事できなかつたことにより喪失した利益の額は、次の計算式のとおり、金一四二万一四〇二円となる。

2,326,800÷865=6374(円未満切捨)

6374×223=1,421,402

(五) 逸失利益 金七八九万九五〇〇円

原告の後遺障害及び家事労働に従事できないことにより喪失する利益の額は前記のとおりであるところ、原告は、症状固定時以降その労働能力を三五パーセント喪失したものであり、原告が失うことになる収入総額からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益の症状固定時における現価を求めると、その額は金七八九万九五〇〇円となる。

(六) 慰謝料 金六九一万円

原告の傷害の内容、程度、入通院状況等は前記のとおりであり、これらの諸般の事情を考慮すれば、原告の被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金六九一万円(傷害による慰謝料金一六九万円、後遺障害による慰謝料金五二二万円)が相当である。

(七) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告は、本訴の提起及び追行を原告訴訟(復)代理人弁護士に委任し、その費用及び報酬として金一〇〇万円の支払を約した。 以上合計 金二四四九万八五九八円

5  損害の填補

原告は、被告車の自動車保険から金一三二九万二九七六円の保険金の支払を受けた。

6  結論

よつて、原告は被告に対し、自賠法三条に基づき、前記4の損害合計額二四四九万八五九八円から同5の既払額一三二九万二九七六円を控除した残額一一二〇万五六二二円のうち金一一〇六万九六二二円の損害賠償金及びこれに対する本件事故の日である昭和五九年一〇月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、本件事故により原告が受けた傷害の内容及び原告の入通院状況並びにその主張の日に原告の症状が固定したことは認めるが、その余の事実は知らない。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実中、(一)ないし(三)の事実は認めるが、その余の事実はいずれも争う。原告は、本件事故当時喫茶店に勤務し、一日五〇〇〇円、月額一二万五〇〇〇円の収入を得ていたものであるから、原告の休業損害及び逸失利益の額の算定に当たつては、右の額を基準として算定すべきものである。また、原告の後遺障害による労働能力喪失期間は、その後遺障害の内容及び程度からみてせいぜい一〇年間程度のものというべきである。

5  同5の事実は認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故現場は、幅員約五メートルの東西道路と幅員約二メートルの南北道路が交差する交差点内で、原告は、交差点手前に一時停止の道路標識が設置されている南北道路を交差点手前で一時停止も左右の東西道路の安全も確認することなく、時速約四〇キロメートル以上の速度で北進してきてそのまま本件交差点に進入したため、東西道路左側やや中央寄りを時速約二〇キロメートルで東進してきた被告車と衝突したものである。したがつて、本件事故の発生については原告にも過失があつたものというべきであり、その過失割合は、原告九対被告一とみるのが相当であるから、原告の被つた前記損害額から九割を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。原告は、本件事故直前、南北道路左側を徐行しつつ北進してきて交差点手前で一時停止し、東西道路を西進しようとして徐行しつつ左折しかけたところ、東西道路の右側を時速約五〇キロメートルの速度のまま東進してきた被告車と東西道路の西側出入口付近南側で衝突したものである。したがつて、本件事故は、被告の右過失によつて発生したものであり、原告には過失はないというべきである。

第三証拠

本件記録中の書証及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生

請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  原告の受傷、治療及び後遺障害

同2の事実中、原告が本件事故により頭蓋骨骨折、脳挫傷、意識障害等、その主張のような傷害を受け、そのため、昭和五九年一〇月二七日から昭和六〇年二月二八日までの一二五日間病院に入院し、同年三月一日から同年六月六日まで(実日数三〇日)病院に通院して治療を受けたこと、原告の右傷害が昭和六〇年六月六日症状固定となつたことは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第二号証の一、二、乙第二、第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告の右傷害は、結局完治せず、記憶障害、物の誤認、計算能力低下、易疲労感、感情の不安定、頭重感、ふらつき等の精神神経症状及び右上眼瞼下方視時運動制限をきたし、就労可能な職種が相当程度に制約される後遺障害を残存させることになつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠は見当たらない。

右の事実によれば、原告の右後遺障害は、等級表第九級一〇号(「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」)に該当するものと認めるのが相当である。

三  責任

請求の原因3の事実は当事者間に争いがないので、被告は、自賠法三条に基づき、原告が本件事故により被つた後記損害を賠償する責任がある。

四  損害

次の(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。

(一)  治療費

原告は、本件事故による前記傷害の治療費として金五六一万六四七六円を支出した。

(二)  入院雑費

原告は、前記入院期間中、金八万〇五六〇円の入院雑費を要した。

(三)  付添看護費

原告は、前記入院期間中、付添看護を必要とし、付添看護を受けてその費用として金一五七万〇六六〇円を支出した。

(四)  休業損害

前掲甲第五号証、成立に争いのない乙第一号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和二八年一一月一三日生まれの本件事故当時三〇歳の健康な主婦で、家事労働に従事する傍ら、昭和五九年七月一日以降訴外岡田要が経営する喫茶サンパールに勤務し、同年七月は二六日、二三四時間稼働して金一五万〇四〇〇円の賃金を、同年八月は二九日、二七一時間稼働して金一七万二六〇〇円の賃金を、同年九月は二七日、二四〇時間稼働して金一五万四〇〇〇円の賃金を得ていたことが認められるところ、原告の受傷の内容、程度、治療状況は前記二のとおりであるから、本件事故により事故の日である昭和五九年一〇月二七日から症状固定日の昭和六〇年六月六日までの二二三日の間、家事労働に従事することも右喫茶店の勤務に就くこともできなかつたものと認められる。したがつて、原告が本件事故に遭わなければ、原告は、右の間、家事労働に従事するとともに、右喫茶店で稼働して右三か月間の平均である月額一五万九〇〇〇円の賃金を得られたものと推認することができる。しかして、昭和五九年度の賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・女子労働者(三〇ないし三四歳)の平均賃金は年額二四〇万五七〇〇円となるところ、原告の右喫茶店で稼働して得られる賃金(年額一九〇万八〇〇〇円となる。)は右センサスの額を下回るものではあるが、原告は右喫茶店勤務のほかに家事労働にも従事していたものではあり、右の家事労働は専業主婦のそれと異なり前記のように一か月平均約二七日、一日平均約九時間稼働していた右喫茶店勤務の合間になされていたものにすぎないものであるから、原告の右休業期間中の得べかりし利益を算定するに当たつては、右センサスの額を基準としてこれを算定するのが相当である(被告は、原告の得べかりし利益を算定するに当たり、右喫茶店勤務における収入実額のみを基準としてその算定をすべきであると主張するが、それは、原告が主婦であることを無視し、右センサスより低額の右収入実額のみを基準として原告の得べかりし利益を算定すべきであるというものであつて、相当な算定の方法とは言い難い。)。そこで、右センサスの額を基準として原告の前記休業期間中の休業損害の額を算定すると、次の計算式のとおり、金一四六万九七八四円となる(なお、前掲甲第五号証及び原告本人尋問の結果中には、原告は右の家事労働及び喫茶店勤務のほか、夫の経営する工務店の手伝いをして月額一七万円の収入を得ていたとする部分があるが、この点は原告のそもそも主張しないところであるのみならず、ただ単に原告がそのように述べるだけで的確な裏付資料もなく、前記認定の喫茶店勤務の実態及び家事労働に従事していたことに照らして信用することができず、他に前記の認定判断を左右しうるような証拠はない。)。

2,405,700÷365×223=1,469,784

(五)  逸失利益

原告の後遺障害の内容及び程度は前記のとおりであつて、その後遺障害は、精神神経症状を中心とするものでそれ以外に労働能力に格段の影響を及ぼすような後遺障害は見当たらないものであるから、原告の後遺障害による労働能力の喪失期間は前記症状固定時から一〇年間、その喪失割合は三五パーセントと認めるのが相当である。そして、原告の得べかりし利益の算定に当たり前記センサスの額(ただし、昭和六〇年度のもの、その平均賃金は年額二五六万五三〇〇円となる。)を基準とすべきことは前記のとおりであるから、原告が右の間に失うことになる収益の総額からホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して原告の逸失利益の前記症状固定時における現価を算出すると、次の計算式のとおり、金七一三万三三六八円となる。

2,565,300×0.35×7.9449=7,133,368

(六)  慰謝料

原告の前記入通院状況、後遺障害の内容及び程度その他本件において認められる諸般の事情に照らせば、本件事故によつて原告が被つた精神的、肉体的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、金六五〇万円と認めるのが相当である。

五  過失相殺

成立に争いのない甲第三号証の二、乙第四号証、被告主張どおりの写真であることに争いのない検乙第一号証の一ないし七、第二号証及び第三号証の各一、二、被告本人尋問の結果によれば、本件東西道路の幅員は、六・九メートルであるが、その北側には北端から一・九メートルのところに外側線が標示されてこれと北端とのほぼ中央にはコマ止めが設けられており、道路南側には南端から一・三メートルのところに路側帯が標示されているため、車道部分の幅員に三・七メートルであり、南北道路の幅員は、交差点の南側で三・九メートル、北側で二・四メートルとなつていること、南北道路の南側交差点のおよそ七メートル手前(南側)には一時停止の道路標識が設けられていたこと、被告は、東西道路の左(北)側やや中央寄りを被告車を運転して時速約二〇キロメートルの速度で東進し、本件交差点を通過しようとしたところ、南北道路の左側をかなりの速度で南から北へ向かつて直進してきた原告車の前部が交差点のほぼ中央付近やや西寄りの地点で被告車の右側前部に衝突したので、あわててブレーキを踏み、約一〇メートル進行して被告車は停止したことが認められる。もつとも、成立に争いのない甲第三号証の三、前掲同第五号証及び原告本人尋問の結果中には、右認定に反し、原告は南北道路左側を徐行しつつ北進してきて交差点手前で一時停止し、東西道路を西進しようとして徐行しつつ左折しようとしたところ、東西道路の右側を時速約五〇キロメートルのまま東進してきた被告車と東西道路の西側出入口付近南側で衝突したものであるとする部分があり、証人岡田要の証言中には、本件事故の二〇分ないし二五分後に事故現場へ行つたところ、東西道路の北側、前記コマ止めに沿つてその南側に外側線を跨ぐ形で、交差点の東側出入口に沿つて設けられている横断歩道に後部がかかる形で一台の自動車が駐車しており、交差点の西側出入口から約七メートル西側の地点から西方にかけて二台の自動車が駐車しており、ボンネツトに触つてみたところいずれも冷たかつたので事故前から駐車していたことが判つたとする部分があるので、これが真実だとすると、被告車が東西道路の左(北)側を東進することは不可能であり、右の甲第三号証の三、第五号証に記載され、原告本人が供述するところの事故状況を裏づけるかの如くである。しかし、右岡田の証言は、それ自体あまりに具体的、詳細かつ周到にすぎていささか不自然であるのみならず、前掲甲第三号証の二は、本件事故の約一時間一五分後から一時間五〇分後に被告を立会わせて司法巡査が実施した実況見分の結果を記載した実況見分調書であるところ、同調書には東西道路の左(北)側、交差点東側からおよそ一八、九メートル東寄りの地点に一台の駐車車両があつたことが記載されているにとどまり、証人岡田要が証言するような三台の駐車車両のあつたことは全く記載されていないこと、証人岡田は現場にいた警察官にその述べるような駐車車両があることを指摘したうえで、ボンネツトが冷たいので大分前から駐車していた旨告げたところ、警察官は分つていると言つた旨述べるが、成立に争いのない乙第五号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件事故については事故当事者である原、被告以外に捜査官はその捜査の過程で目撃者その他有力な第三者の供述を結局得ていないにもかかわらず、右岡田が捜査官に事情を聴取されて供述調書を作成されたことはなかつたこと、右岡田は前記のように原告の雇い主であるのみならず、原告及びその夫とは隣人同士で一〇年来の知己であり、本件事故後は原告の代理人として被告側と示談交渉に当たつてきたこと、右岡田の述べるような駐車状況を裏づけるような他の客観的証拠は全く見当らないことが認められ、これらの事実に照らせば、証人岡田要の前記証言は到底信用することができないものである。また、前掲甲第三号証の三、第五号証及び原告本人尋問の結果は、前記信用することのできない証人岡田要の証言と符号する内容のものであるのみならず、原告は、本件事故により頭部を被告車のフロントガラス右端付近に強打してはね飛ばされ、コンクリートの路面に叩きつけられて頭蓋骨骨折、脳挫傷等の重傷を負い、事故直後から四〇数日間意識障害が続き、症状固定後も記憶障害や物の誤認等の後遺障害に悩まされているのであつて(これらの事実は、前掲甲第二号証の二、第三号証の二、第五号証、乙第四号証、検乙第三号証の一、原、被告各本人尋問の結果により認められる。)、これらの事実に照らすと、果して正確な記憶に基づくものであるのか疑いを抱かざるを得ず、また、もし原告の述べるように原告が南北道路を北進してきて東西道路を西進するべく左折しかけたところで東西道路を東進してきた被告車の右側前部と衝突したものとすれば(被告車の衝突部位が右側前部であることは、前掲検乙第三号証の二により明らかである。)、原告車の衝突による破損の箇所は右前部でなければならないところ、事故後に原告車を撮影した写真である前掲検乙第一号証の六によれば、原告車の衝突による破損箇所は左前部であることが明らかであつて、原告の述べるところは動かし難い客観的証拠と矛盾する内容を含むものであるうえ、証人大和孝典の証言及び被告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時酒気を帯びていたことが窺えるのであつて、これらの事実関係に照らすと、前掲甲第三号証の三、第五号証及び原告本人尋問の結果中の前記部分は到底信用に価いしないものといわざるをえないものである(これらの証拠と対比し、被告の主張に副う前掲甲第三号証の二、乙第四号証及び被告本人尋問の結果は、右のような矛盾や不合理な点がなく、それ自体としても自然で、十分信用に価いするものである。)。そうすると、原告の主張に副う右の各証拠をもつて前記認定を左右するに足る証拠ということはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠は見当たらない。

そして、前記認定の事実によれば、原告は、一時停止の道路標識が設置されている南北道路を交差点手前で一時停止も左右の東西道路の安全も確認することなく、かなりのスピードで北進してきてそのまま本件交差点に進入したため、東西道路左側やや中央寄りを時速約二〇キロメートルで東進してきた被告車と衝突したものと推進することができ、本件事故の発生について原告に過失があつたことが明らかである。また、前記認定の事実によれば、被告にも右(南)方道路の安全の確認を怠り、徐行すべき注意義務を尽くさずに本件交差点に進入した過失があることが明らかであつて、これら原、被告双方の過失を総合考慮すれば、その過失割合は、原告六対被告四と認めるのが相当である。そこで、前記四において認定した損害額合計二二三七万〇八四八円に六割の過失相殺をすると、その損害の額は金八九四万八三四〇円となる。

六  損害の填補

請求の原因5の事実は当事者間に争いがないので、原告の被告に対する本件損害賠償請求権は、その全損害が填補されて消滅したことが明らかである。

七  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山下満)

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